【夏の夜 いつものバーで。】

会社で怒られた。
確かに僕が悪いけれど、
みんなの前で怒鳴らなくてもいいのに。
ふてくされて、たまに寄るバーのドアを押す。
するとカウンター席に美人がいたので、
なんとなくふたつとなりの席に座ってみた。

よく見るとハガキを折って動物を作っている。
僕の視線に気がつくと、
「ori-hagakiっていうの」
と笑って、いろいろ作ってくれた。
ペンギン、ウサギ、金魚。

せっかく話しかけてくれたのに僕は
「そ、そそそうなんだ」
としか言えなかった。
彼女の顔に失望が現れ、沈黙が流れる。
僕のバカヤロウ。もっと飲んでやる!
こんな散々な出会いだったけれど、
僕たちが付き合って3年になる。
彼女は相変わらず魅力的で、
一緒にいると、まるで金曜の夜みたいに、
開放的で期待にあふれた気持ちになれる。

ある日ソファでカフェオレを飲みながら
「会社なんか行かずに、ずっと一緒にいたいよ」
と言ってみた。喜んでくれるかな。

しかし彼女はピクピクと痙攣し始めた。
かわいい唇がめくれあがり、
チャームポイントの大きめの前歯がのびて
黄ばんだ牙に変わった。
目頭が裂けて眼球が真っ赤に血走っている。
耳も伸びて、怪物になってしまった彼女が
牙をむき出しにしてのしかかってきた!
「食われる!」
そう思った瞬間、僕は目を覚ました。
そのままバーで眠りこけていたみたいだ。
日付は会社で怒られた日のまま。

ふと横を見ると彼女の姿も鞄もなく、
銀色のori-hagakiのウサギだけが
カウンターに置いてある。

なにげなく手に取り開いてみると、
素敵な文字で
「がんばって働け、次は食べちゃうぞ」
と書いてあった。

*このお話はフィクションです。
http://www.replug.jp/fs/replug/c/orihagaki

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