【スギ林の中で】

【スギ林の中で】多くの日本人と同じように、
彼女もまた花粉症だった。
薬は飲んでいるけど、
花粉の量が増えてあまり効き目がない。
毎年春はスギ花粉の飛散で悲惨。
たかが花粉症で春を楽しめないことを思うと
けっこう真剣に悲しい気持ちになった。

去年の今頃、
友達とある田舎町に旅行したとき、
町がスギ林で囲まれているのを見て
戦慄が走った。
案の定その晩には鼻の奥が炎症して血が出たし、布団に入ると悲しさかアレルギーか
涙が流れ続けた。

何日目かに美術館を訪ねたとき、
休憩コーナーでふと窓の外を見ると
風に吹かれたスギが枝をしならせ、
真っ黄色の粉を飛ばしていた。
ちょうど花粉のトピックを伝える
ニュース映像みたいに。

彼女は立ちどまって
しばらくその様子を眺めていた。
その時表情をよく見れば、瞳孔が開いているのがわかったかもしれない。
「花粉って本当にこんな風に飛ぶんだ」
彼女は自分の中で何かが
ぷっつんするのを感じた。
辛くても、「たかが花粉症だから」と
抑えていた気持ちが堰を切って溢れた。

そしておもむろに振り返ると
さっきミュージアムショップで買った
Greeting Girlsをカバンから取り出し
「花粉と戦う旅にでます。探さないでください」
としたため、その場に置いた。
花に囲まれた女の子が花粉をもろともせず
ニコニコ笑って揺れている。

そして速足で
友人たちが先に進んだ方向とは逆に歩きだし、
建物を出て裏のスギ林に向かう。
整備された歩道がとぎれても
彼女はスギ林にむかって突き進んだ。
最初はすたすた歩いていたのが
だんだん全力で走りだし、
しまいには何かわめきながら
めくらめっぽう手をふりまわしていた。

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彼女がいないことに気付いた友達は
すぐにGreeting Girlsの置手紙を見つけた。
そして「まさか」と思いつつスギ林を探すと
彼女は花粉にまみれて気を失っていた。

目を覚ますとみんなは無茶な行動を
口ぐちにからかったけれど、
本人はそのとき
自分がもう花粉症でないことを感じていた。
そしてその驚きと喜びでいっぱいになった。

※実際には荒療治で花粉症が治ることはないとされています。真似しないでくださいね。

http://www.replug.jp/fs/replug/c/gg

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