【ヤングソウル、解散】

【ヤングソウル、解散。】

上京して2年半。
やっとケンジと私のユニット「ヤングソウル」の
デモテープができた。

ケンジはイケメンだし、音楽の才能もあるから
私たちはゼッタイに成功する。
酔うと殴るし浮気もするけど、
私は彼の才能に惚れてるの。

レコード会社にデモを持ち込んで、
担当者を待っていたら小柄なおじさんが出てきた。
ビジネスだから、きちんと名刺を渡さなくちゃね。
家のプリンターで印刷した、インパクト抜群の名刺。
きっとこの人びっくりするよ。

なのにそいつは私たちの名刺をろくに見ずに
手元の名刺ファイルにしまった。

その時見ちゃったんだ。
名刺ファイルに私たちと同じようなアーティストの名刺が
大量に挟まってるのを……。
私は自信作の名刺がブラックホールに吸い込まれる
宇宙のゴミみたいに感じたんだ。

なぜか私はその日から音楽活動に身が入らなくなった。
予想どおり、担当者からの連絡もなかった。

あれから3年たった今、
私はケンジと別れて、
レコード会社で新人の発掘を担当している。

名刺ホルダーには大量の無名アーティストの名刺。
そのほとんどに連絡をすることはないし、
溜まったらまとめて捨ててしまう。
この名刺の山を眺めていると
昔の自分のことなんか忘れて、
「この名刺の数が私の人間としての価値を表してる」って
思えてくる。

でもそんなおごった気持ちじゃいい仕事はできないし、
頑張ってるアーティストに失礼だから、
あの頃を思い出すために
たまに例のデモテープを聞くようにしてる。
今聞くとほんとにひどい曲で、聞くに堪えないんだよね。

名刺フォルダー Log book
http://www.replug.jp/fs/replug/c/logbook

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