【時間を無駄にしない】

short_dec2016
時間を無駄に過ごしていない、
と胸を張って言える人はどれだけいるだろう。

この前、ある友人が急にこんなことを言ってきた。
「人は人生の中でどのくらいトイレに行っているか知ってる?
1日平均10分だとして、80年生きるとすると、
なんと約203日間にもなるんだよ。すごくない? 」

すごいと思った。
そして、203日間もトイレに閉じ込められる自分を想像してぞっとした。

ぞっとしている僕に向けて友人は続けた。
「それ以外にも睡眠とかお風呂の時間とか通勤とか考えると
人生で自由になる時間なんて本当に限られてて、
だから睡眠時間は短い方がいいし、
多少お金払ってでも会社の近くに住んで通勤時間も短くした方が
自分の時間を多く取れて有効に使えると思うんだ。どう?」

どう、なんだろうか。
確かに通勤時間は短い方がいいけれど、
睡眠時間は1秒でも引き伸ばしたいと思っている人間なので、
その最高の時間を削るなんて、
有名温泉旅館でシャワーだけ浴びて帰るレベルの愚行だと思った。
『愚か者だと思う』と喉まで出かかったのを抑え、
「有効かぁ。まあ、そう有効(ゆうこう)ともあるかもね。」
とギャグかましの術でうやむやにしようとした。

すると鈍感な友人は
「でしょ。みんなもっと自分の時間が
限られたものだっていう意識を持つべきなんだよ!」と増長した。
ギャグかましの術をスルーした友人とこれ以上話していたくなくて
「じゃあ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
とその場を逃げ出した。

「トイレで自分磨きしろよな」
という友人の声を無視し、
トイレにはいかずそのまま建物を出ると嫌な気持ちはすぐに消えたけれど、
ふと、僕はこの限られた時間をどのように使っているんだろう、と疑問に思った。

僕の時間の使い方は、おそらくそんなに特殊ではない。
おそらくみんなと同じだ。
平日は仕事に追われ、家は寝るためだけに帰っているようなもの。
休日は、ほぼ一日中ずっと砂時計の砂が落ちるのを見て過ごしている。

僕の砂時計の砂は黄色で、
サラサラキラキラと軽やかに落ちていく様子がとても好きだ。
何度も何度もひっくり返していると、
ガラス瓶の中から砂たちのかわいい声が聞こえてくる。
「もうやめてー、ひっくり返すのやめてー」
「まだ落ちきってないから辛抱してー、せめて全部落ちきってからひっくり返してー」

言うまでもないけれど、落砂には変な魔力がある。
(「落砂(らくさ)」は僕のオリジナル用語)
蟻地獄のように真ん中からくぼんでいき、
周りの砂を巻き込みながら滝のように落ちていくあの場所に、
もし自分が入ってしまったらと思うと怖くて怖くてたまらない。
でもその想像を止めることはできない。
見るのを止めることもできない。
取りつかれたように一日中砂時計を見続けてしまうのである。
そして砂に巻き込まれる自分を想像してゾクゾクしてしまう。
だからやめられない。
これを読んでいるあなたも同じ気持ちだと思う。
同じ落砂中毒同士、気持ちを共有できてうれしい。

ただ、人生という限られた時間を
これ(落砂)だけで終わらせるのは何となくもったいない気もしている。
僕はもちろん今後も大切に落砂を続けていくつもりだけれど
落砂以外の楽しみがあってもいいかなとも思う。
裏切ってごめん。

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