【魚屋の幸運】

僕の名前はサイトウといって、昔ながらの駅前商店街で魚屋をしている。
ずっと魚屋だったわけではなく、7年前に父親が他界し、実家の店をついだ。
それまでは都会の動物飼育用具メーカーで、
鳥類関係の商品の営業をしていた。

ところで最近僕は思い立って、ちょっとした買い物をした。
タイポリックという万年カレンダーだ。
いわゆる「デザイナーズ」というのか、とてもしゃれたデザインで、
こぎたない魚屋の片隅で、今日も異彩を放っている。

べつに特にしゃれたものを買おうと思ったわけではない。
値段だってそこそこするのだ。
本当のところ、毎年カレンダーを買い替えるのが面倒で、
万年カレンダーならその手間がないと思い
インターネットで探して、たまたま目にとまった。
ただそれだけ。
普段の僕はおしゃれとは無縁。
それでも、水のようなアクリルの美しさにひかれて購入した。
水のような見た目は、魚屋に相応しいような気もした。
実際置いてみると、タイポリックは古い店内に思ったより馴染んだ。
そしてそれ以来、不思議なことが起こる。

僕がそれに気づいたのは、タイポリックを店に置いた次の日の朝だった。
前日の夜、からにしたはずの水槽に、13匹の魚がゆったり泳いでいる。
よくよく観察するとそれらの魚は、どれもとてもおいしそうだ。

僕はその魚が食べられることを自分で確認して、
店頭に並べた。

それから魚は毎日現れた。
お客さんの評判も上々で、
「こないだの魚は特別おいしかったわよ」
などと言ってくれる。
まるで、うちでの小槌を手に入れた、昔話の主人公の気分だ。

さらに僕には素敵な彼女までできた。
カワセミカという名前で、どことなく鳥に似ている。

勝手に増える魚を店に出したころから馴染みのお客さんになり、
来月から一緒に住む予定なのだ。

魚好きのカワセミが僕のところにやってきたのも、
タイポリックのおかげかもしれない。
※この話はフィクションです。
http://www.replug.jp/fs/replug/c/typolic

308537_620403904655476_1194373154_n