ゆるく、こだわりたい。 - その2 メンテナンスは楽しい遊びなのだ。 -

子どもの頃に、時計とかラジオとかを分解した経験はありますか?
男性であれば、分解した挙げ句に元に戻せなくなり、焦った経験の一つや二つあるかもしれません。でも、残念ながら少年時代の僕には、そんな体験は一度もありませんでした。今回は、そんな自分が大人になり、さらに初老になって初めて機械を分解してみたときの話をしてみようと思います。

突然ですが、「リール」をご存知でしょうか?
2回続けてまさかの釣りネタ。ほかにテーマはないのですか? と呆れられるかもしれませんが、私にとってそこそこ語れるテーマということで、どうぞもう一度お付き合いください。
「リール」とは、釣りに使う道具の一つであり、釣り糸を巻き取るために使用します。道具としての仕組みはいたって単純で、円柱状のパーツをハンドルでクルクルと回転させて糸を巻き取る構造をしています。リールの内部には、大小さまざまな歯車が組み合わされていて、このギア比によって、少ないハンドルの回転数で素早く釣り糸が巻き取れるようになっています。

さて、リールを購入すると、メンテナンスを前提に、付属品としてオイルが同梱されているものがあります。私の好きなスウェーデンの釣り具ブランドは、何十年も前のモデルを現代でも製造し販売していますが、その時代のリールは個人でメンテナンスや修理しながら使用することを前提に作られており、オイルのほかにも専用の六角レンチやドライバーが付属していたりします。
「釣りのシーズンオフには、手入れを楽しむために、どうぞ軽い気持ちで分解してください!」というメーカーからのメッセージが、そこには感じられます。私の内なる好奇心もその意図に激しく反応したのは、言うまでもありません。
大人たるもの道具のメンテナンスにもこだわってみたい!玄人を気取ってみたい! まずはオイルでも差してみて、てっとり早く手入れ気分を味わってみよう!

衝動に導かれるまま、血迷った私は、購入したばかりのリールを軽い気持ちで分解してみました。その頃の私は、オイルの差し方も適正な分量も、そしてオイルとグリースとの違いもあまり分りません。ネットの下調べもそこそこに、気分でオイルとグリースを歯車などに差しまくります。
その結果、開封したばかりのリールは、私が勝手にメンテナンスと称した行為のせいで、使いものにならなくなりました。まだ一度も使用していないにもかかわらず…。
まさか、オイル一つでこのような結果になるとは思ってもいません。あがいてはみたものの結局、自分の力ではどうすることもできず、買ったばかりのリールは、そのままお店に持ち込んで、メンテナンスをお願いするはめになりました。

「(一刻も早く釣りに行きたいので)すみません、なるべく早く修理をお願いします」
私の懇願もむなしく、お店の方からは非情な一言。
「メーカーに戻しますので、早くても1カ月程かかります。よろしいですか?」
リールが戻った頃にはすでに釣りの季節は終わっていました。悔やんでも悔やみきれません。

今では以前より分別がついた私ですが、相変わらず飽きもせずにリールを分解してみては、内部の構造を眺めニヤニヤしたりしています。最近では、内側を覗いて仕組みが見て分かる機械や装置というのは、本当に少ない気がします。リールの構造自体は単なる歯車の組み合わせかもしれませんが、シンプルな仕組みだからこそ普遍的に感じられ、また技術や工夫が機能美として理解できるためか、ずっと眺めていても飽きません。

リールに限らず、数年前からメンテナンスしながらモノを使うおもしろさに気づかされました。いつも上手くできる訳ではありませんが、手入れのプロセスを調べたり実際にやってみたりすることは、意外に楽しいものです。歳を重ねるごとに、モノとの距離感も以前より近づいてきているように思えますし、これからも気に入ったモノにはしっかりと寄り添っていきたいと思います。

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